第八回 JIDLカレッジセミナーを開催!
2024年7月11日(木)に、第八回JIDLカレッジセミナーを開催。今回は初のフィールドワークを実施。
場所は都心からおよそ1.5時間、産業廃棄物の処理を事業とする石坂産業(埼玉県入間郡三芳町・三冨今昔村)です。
サステナブルを、五感で学ぶ
石坂産業ではゴミをゴミにせず、資源化する『Zero Waste Design』を掲げ、大量生産・大量消費社会から、循環型社会へシフトするためのさまざまな取り組みを行っています。
その取り組みなどを実際に見ることでサステナブル、そして循環経済の最前線を五感で体感し、自身が勤める会社での取り組みを見つめ直したり、新しい事業の着想を得たり・・・ビジネスの発展はもちろん、「ひと・まちを元気にするため」の次のアクションのヒントにしようと実施しました。
工場見学を通じ、“Zero Wasteの本気”を感じ取る
企業の中にはSDGsを掲げながらも形骸化し、社員の意識もそれほど高くない、というところがある一方、石坂産業は違います。回収してきた産業廃棄物を減量化・再資源化するために、例えばごみの重さを量ったり、風力を使ったり・・・。一つひとつ試行錯誤を何十年も繰り返し、減量化・再資源化98%を実現。これは業界トップクラスの水準とのことですが、工場見学をアテンドしてくれた社員の方からは「私たちが目指しているのは減量化・再資源化100%。そして持続可能な社会の実現です」というお話が。工場見学は、環境問題を強く自分ごと化するきっかけづくり。頭では気候変動、地球温暖化(※1)のことは分かっていても、なかなか実行できていないという人が多いのではないでしょうか。企業人、生活者みんなが環境問題を身近に感じ取り組まないと減量化・再資源化100%はもちろん、持続可能な社会は実現しません。石坂産業のゴミをゴミにしない取り組み『Zero Waste Design』からは強い本気度を感じます。
※1:国連のグテーレス事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と言っている
荒れた雑木林を、多様な生物が生息する里山へ復元。
なぜ、石坂産業がやるのか?
工場見学に続いて向かったのは三冨今昔村という里山。ここには今でこそ季節ごとに1,300種の動植物が生息しているとのことですが、かつてはたくさんの不法投棄物が行われ、荒廃した雑木林だったそうです。
里山を歩きながら疑問が浮かびました。なぜ、産業廃棄物を事業とする企業が里山を復元させるのか、守るのか。その理由を社員の方が2つ話してくれました。
一つは石坂産業の敷地の約80%が森林だということ。石坂産業がある三冨は、300年以上から守られてきた里山。しかし地域の人口減少も影響したのか、手入れがされなくなり雑木林となってしまったそうです。そして不法投棄が行われるようになり、掃除をしても翌日にはゴミが散乱するという日々・・・。目の前にこういう課題があり、地域の人が困っていることを放置してはいけない。地域の人たちが愛していた光景を復元したい。そういう思いで雑木林を手入れするようになったそうです。
そしてもう一つ話してくれたのは産業廃棄物の事業は『NIMBY』だということ。『NIMBY』とは「Not In My Back Yard"(うちの裏庭にはやめてくれ)」の略語。その事業や取り組みの必要性は認めていながらも、自分の近隣に建設・設置されるのは嫌だと主張することです。確かに産業廃棄物は、現代では『NIMBY』と言える事業かもしれません。しかし先述したようにゴミの減量化・再資源化100%、そして持続可能な社会の実現のためには私たち一人ひとりが真剣に考え、行動しなければなりません。そして、産業廃棄物の事業が『NIMBY』のままではいけない、と強く感じました。
極論を言えば、東京のど真ん中に産業廃棄物の工場が当たり前に存在する、そんな社会になることが理想なのかもしれません。
フィールドワークの経験を
自分たちの“毎日”に置き換える
午前のフィールドワーク、そしてオーガニックで美味しいランチの後は、フィールドワークの経験を自分たちの“日常”に置き換える時間。ここからは当会の代表理事・池野が加わり、石坂産業の社員の方とのトークセッションを行いました。
・社会に対するエンゲージメント
・逆転の発想
・里山との共生、共存
・循環デザイン
・価格に左右されない価値をつくるには
・気づき
これは、とても暑かったフィールドワークを経て参加者から出てきた、まさに:“ホット”なテーマ。池野がテーマを選びながら石坂産業の社員の方とセッションが進むなか、社員から出たのが「サーキュラー・エコノミー(※2)」という言葉。「サーキュラー・エコノミー」を和訳すると「循環型経済」。材料は廃棄物せず、メンテナンス、再利用、改修、再製造、リサイクル、堆肥化などのプロセスを通じて循環し続けることを指します。社員曰く「循環型経済となるようデザインすることは、石坂産業にとって社会とのエンゲージメントを高めることにもなり、里山との共生、共存にもなる。とても大切な概念です」とのこと。池野はその言葉から自身が代表を務めるウエルシアで何ができるか、JIDLとしてどうやっていくといいのかなどを考えているようでした。
そしてもう一つ「ネイチャーポジティブ(※2)」という言葉を社員が口にしました。「ネイチャーポジティブ」を和訳すると「自然再興」。気候変動や生物多様性の損失などを止め、自然を回復軌道に乗せることを指します。「ネイチャーポジティブは、まさに石坂産業が何十年も前から取り組み続ける里山との共生、共存のことです。企業の方のように工場見学や里山見学をすることも、地域住民をはじめとする人たちが里山で遊ぶことも、自然との共生・共存を考えるきっかけになれば嬉しい」と話してくれました。
「お客様、そして社内を教育する」とは?
次に、当初、予定になかった石坂産業の社長・石坂典子氏が飛び入りで参加。急きょ、池野とのトークセッションが始まりました。石坂産業が大事にしていることや、環境のために徹底した取り組みのこと、ゴミを出さない工夫のことなどをセッションしました。そしていつしか「価格に左右されない価値をつくるには」という深いテーマに展開。市場の動向を追い過ぎると、消費者の“顕在的な欲しいもの”に偏りコモディティ化が進んでいきます。会社もチャレンジしにくくなる。そこで重要なのが「お客様、そして社内を教育すること」だと石坂社長は話します。この話に池野が「新しいこと(商品、サービス)を市場に出すにはリスクもあるが、そこに踏み込んでいかないとイノベーションも起きない」と続きます。何が社会によって、会社にとって重要なのかという本質的な問いを社内、そして消費者・生活者に伝え教育しないと国内のビジネスがどんどん縮んでしまう。そしていつかは体力がなくなり倒産してしまう。だからこそ、『教育』が重要だと、もう一度石坂社長は声を大きくして話しました。限りある時間でのセッションでしたが、参加者も積極的に発言・質問し、とても活性したセッションとなりました。このテーマは、多くの参加者にとっても興味深いテーマのようなので、どこかでもう一度、議論したいと思います。
*2:サーキュラー・エコノミーと3R(リユース・リデュース・リサイクル)の違い
廃棄物が出ることを前提にしてるのが3R、廃棄物を出さないようにするのがサーキュラー・エコノミー