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いま、注目の豊岡モデル〜IT・DXでまちづくりのイノベーションを起こす〜

JIDLの理念は「ひと・まちを元気にする」こと。この実現のためにさまざまな活動をする一つに、“地域創生・地域活性化に貢献すること”があります。貢献する方法もさまざまあるのですが、地域が取り組んでいる情報を多くの人と共有していくことも重要なことだと考えています。その情報を得た人がその人なりに新たに行動を起こすきっかけにしてほしいと思うからです。
今回はその一つとして、豊岡モデルをご紹介します。

取材協力:武田元彦氏
一般社団法人 豊岡観光イノベーションアドバイザー
データストラテジー株式会社 代表取締役
株式会社Hataluck and Person社外取締役
芸術文化観光専門職大学・長野県立大学大学院 非常勤講師


地域創生の切り札として観光に注目する観光庁

豊岡モデルの話に入る前に、地域における取り組み、観光庁の方針にも触れておきたいと思います。ここ最近、インバウンド観光客(外国人観光客)過去最高を更新した、というニュースがあります。一方で外国人に対する対応や人材不足もあり、宿泊施設等が受け入れたくても受け入れられないという声もよく耳にします。このままでは機会損失となってしまうので、観光庁が特に力を入れているのがデジタル施策、DX施策です。

これまで、観光地の宿泊施設は、施設ごとに独自でプロモーションや集客を実施し、状況変化に合わせて随時、各種対応が必要になっていました。その地域全体でプロモーションや集客を一本化するという考え方はもちろん、これらをデジタルで考える人材が観光業界には少ないのも実情でした。

そのため、2016年に観光庁は「日本版DMO(※1)」と呼ばれる、データやデジタルなどを活用して魅力的な観光地を作るための組織であるDMOを全国に立ち上げ、2024年4月時点では全国で約300件のDMOが登録されています。

地域全体でインバウンドを受け入れる

その中で各地方自治体に注目されているのが兵庫県豊岡市のDMOである、一般社団法人豊岡観光イノベーションの『豊岡モデル』です。

豊岡での特徴的な取り組みの1つに、「地域OTA(※2)」が挙げられます。

これまで、宿泊施設は集客するために自社の空室状況や宿泊するプランをOTAと呼ばれる大手企業のプラットフォームに登録する必要がありました。観光庁は令和5年に地域でもOTAと呼ばれる宿泊予約システムを導入するように提言しました。

これは例えば、豊岡市、城崎温泉などといった、観光地としての地域単位でのOTAを導入することで、観光地の情報収集から宿泊予約までを同じサイトで実施できるようになることを目指しています。

観光地を紹介するサイトは情報発信しかしないことが多いなか、一般社団法人豊岡観光イノベーションが運用する外国人観光客向けのWEBサイト『Visit Kinosaki』は、開設した2016年当時からいち早くサイト上で宿泊予約もできる仕組みがありました(これまでは宿泊等の予約をする際は、地域の観光サイトでは予約できず、別の予約サイトで行う必要がありました)。
※2:Online Travel Agencyの頭文字
インターネット上だけで取引を行う旅行会社のこと。 
※1:Destination Marketing Organizationの頭文字
地域の多様な関係者を巻き込みつつ、科学的アプローチを取り入れた
観光地域づくりを行う舵取り役となる法人

『Visit Kinosaki』

豊岡モデルは何か、なぜ注目されるのか

先ほども書いたようにDMOは、各事業者(宿泊施設など)がなかなか採用できないデジタル人材の代わりになったり、外国人向けのマーケティング戦略やコンテンツ開発なども考えたりします。しかしここまでは豊岡以外の地域でもできていることです。では、豊岡モデルはなぜ注目されるのでしょうか。豊岡モデルの特徴は、以下の3つの循環です(図参照)。


『Visit Kinosaki』を運用することで、どれだけ地域で売り上げが上がったのか。どれだけ外国人観光客の反応があったのかがデータで分かります。このデータをDMOや地域事業者が知ることで今後の事業活動のモチベーションアップにもつながり、DMOの活動への理解も得やすくなります。

またVisit Kinosakiを通じて予約された宿泊や体験プログラムの予約には手数料が発生します。その手数料がDMOを通じて地域に落ち、それを活用して地域プロモーションに活かす。こういった実践を通しデジタル人材も育成されていく。このサイクルこそが豊岡モデルと言われている仕組みです。

一般社団法人豊岡観光イノベーションがDMOとして大切にしている4つのこと

1.戦略と実行はデータで行う

自分たちが良いと思うものと、お客様が良いと思うものは違う。
外国人観光客にインタビューやアンケートを行い、データとして蓄積。データに基づいて戦略と実行を行うことを重視。

2.DXは開発より運用を重視

システムは、導入することよりも、使うことが重要。
負の遺産化しないためにも、どうやって運用し、使い続けるかを重視。

3.運用のための組織を超えたコアチーム

DMOの職員かどうかに拘らず、組織の枠を超えて専門知識や経験を持った人をチームとして仲間に入れることを重視。

4.DMOの役割はディレクション

DMOは、観光だけでなくマーケティングやDXなど、幅広い分野での活動が求められる。それぞれの分野で、誰に、何を、どうお願いすれば良いかを考え、ディレクション=依頼することのプロフェッショナルになることを重視。

例えば企業であれば社長であったり部長であったり、役割が明確にあるのですが、地域は、特に観光地はたくさんの異なる企業の集まりなので、社長が指示をすればみんなに伝わる、というわけには行きません。しかし豊岡市は『Visit Kinosaki』での実績を通じてインバウンドに向けた機運を高め、インバウンドの受入れに必要な環境を少しずつ整えてきました。

このように役割の明確化、徹底したマーケティングを行っているDMOは、ほかにはなかなかないそうです。

豊岡モデルがうまくいった理由とは

なぜ、豊岡モデルがうまくいくのか。そして、うまくいく仕組みならほかの地域でも実践すれば良いのではないか、という意見も多くあるようです。しかし実際にはなかなかできていないのはなぜなのでしょうか。それは、大きく2つの理由あるようです。

1つ目はタイミングと対象者。『Visit Kinosaki』の対象者はインバウンド向けで、開設された2016年当時、豊岡市の地域事業者でインバウンドの誘客に取り組む人はまだ少なかったため、比較的スムーズに受け入れられたとのことです。
2つ目は地域性。多くの地域の場合、宿泊をはじめ、地域に来るお客の奪い合いになり、共存・共栄どころか、連携するというのもなかなかできないなか、城崎温泉はそもそも横のつながりが強い地域で、「共存・共栄」ということや「まち全体が旅館である」という考えが根付いていたそうです。

日本全体が盛り上がっていくために

「ひと・まちを元気にする」ためには、宿泊施設やお店が一人勝ちを考えるのではなく(自分のところが儲かればいい、という発想ではなく)、地域全体が儲かることを考えること、情報を周りにもオープンにして共存・共栄を考えることが重要となります。最近は各地域のDMOの存在もあって、以前よりは地域での共存・共栄、連携はできつつあるようですが、まだまだ豊岡モデルのようにできていないようです。世界から日本が魅力的な観光地であると注目されている今、地域ごとに文化や景観など特色を生かし、地域全体で魅力や価値をより考えるようになれば、現状ではあまりスポットが当たっていない地域でもきっと観光客が来るようになることでしょう。