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第三回 JIDLカレッジセミナーを開催!

2022年12月8日(木)、『銀座 飛雁閣』(東京都中央区)にて、第三回 JIDLカレッジセミナーを開催いたしました。

JIDL初のプロデュース商品「あめんどろ純芋蜜 紫」が日本とシンガポールで発売開始したこともあり、会の冒頭でJIDLの創設趣旨を改めて伝え、そしてウエルシア薬局の首都圏一部店舗やシンガポール店舗、ECでの展開、商品の展開など、これまでの活動報告を行いました。

また、開会の挨拶で池野からサプライズがありました。池野が突然スーツの上着を脱ぎ出したのです。ざわつく会場・・・。上着を脱いだその下から現れたのはサッカーW杯の日本代表ユニフォーム!
池野の狙いはなんでしょうか。それは池野自身が撮った画像を投影しながら話したことで明らかになりました。「W杯観戦の行き来で空からドバイを見た。ドバイは地の利を見極め、街の開発をしている。この開発が始まった頃、日本では諫早湾の閉鎖を行い、広大な水田を作ろうとしていた。しかしあれだけ塩があるのに米なんてできるだろうか? 結局、減反政策によって水田づくりから野菜などの栽培に方針転換が起きたが、ドバイのようにもっと地の利を考えていれば、長崎県も今よりも変わっていたのではないか。先見の目が無かったとしか言えない」という話題を振りました。まさか開会の挨拶でこんな話になろうとは・・・多くの参加者が思ったことでしょう。ここの場ではこれ以上深く話をしませんでしたが、地の利を考えるというのは、地域創生を考えるJIDL、JIDLのメンバー、会員たちに対し気づきをくれた内容で、今後、そういうこともJIDLカレッジセミナーで話していきたくなる話題でした。


第一部 堀江 重郎氏(当会・副理事長、順天堂大学大学院医学研究科、泌尿器外科学主任教授) 講演
タイトル:『医のプロフェッショナルが語る~転換期に立ち向かう勇気~』

医師とは、人を明るくできる仕事だと感動した学生時代

私の父方の祖父は軍人で、戦争によって早逝しました。また、父の家族はみな結核で亡くなりました。こういう経験から父は健康への意識が高くなり、当時の健康食品や健康器具をよく購入していました。今でいう健康オタクですね。こういうことを目の当たりにしていたことが、私が健康に興味を持つきっかけの一つになっていたと思うのですが、もう一つ、私が医療従事者になる大きなきっかけがあります。それは、母の乳房にしこりがあり、「癌かもしれない」と診断を受けたことです。当時は「癌は不治の病」のようなイメージがあり、家族みんなが暗くなっていました。そんなとき、近所にアメリカから帰国した国立がん研究センターの医師がいたので相談し診察してくれたのですが、「このしこりは癌ではなく水が溜まっているだけではないか」と言って注射で抜いたら本当に水だった。そして家族みんながほっとして明るくなったのです。このとき、「この仕事は一瞬にして人を明るくできるのだ」と感動し、医師になることを決意。そして医療系の大学に進み、海外に留学し勉強し、医師になりました。

イノベーションはリスクがある。だからやらない!?

海外から戻り、勤めたのは東大病院。この頃は、これまで8時間ほど手術にかかっていたものが4時間くらいで終わる時代になっていて、劇的に器具が良くなってきていたのですが、東大の泌尿器科では先端の設備は導入していませんでした。そんなとき違う大学病院にいる先輩から、「このままでは時代遅れになってしまうから東大でも設備投資をしたほうが良い」と助言を受けたので上司に相談したところ、「システム、教育方法の変更などの面からリスクがあるので、設備投資をしない」と言われてしまったのです。これだけが理由ではないのですが、しばらくして、私は違う大学へ移りました。
それから30年以上経ちますが、泌尿器の分野では東大の目覚ましい発展は今のところありません。私の考えが正しいかどうかは分かりませんが、あのときに投資をしていれば、東大は今のような状況にはなっていなかったのではないでしょうか。リスクを考えるのは大切ですが、イノベーションにはリスクはつきものです。「リスクがあるからやらない」では良くならないどころか、かえって衰退することもあり得ます。

イノベーションはリスクがある。だけど、やる。

『破壊的イノベーション』というマーケティング理論があるのですが、これは医療業界でもどの業界でも活用できます。これまで当たり前だったものの価値を下げて、新しい価値基準を作っていくというものですが、例えば、これまで大きめに開腹して手術をするというのが当たり前だったのが、器具が発展して腹腔鏡手術という本当に小さく開けて手術ができるようになる。すると若い医師たちはこの手術方式を学ぶようになる。そして大きめな開腹手術をする価値は下がり、ほとんどやらなくなる、といった具合です。ちなみに現在勤めている順天堂大学では、医学部=学費が高いというイメージを変えるため、学費を下げて良い学生を集めることに成功しています。

ここにお集まりいただいている皆様の業界はいろいろだと思いますが、ぜひリスクを恐れず、新しいことにチャレンジしてイノベーションを起こしてほしいと思います。

第二部 パネルディスカッション
タイトル:『立ち位置を変えることで生まれるイノベーション』
登壇者:池野理事長、川口美喜子氏(当会・諮問委員、大妻女子大学家政学部教授)

上の立場にいるからこそ、小さなイノベーションを実施していく

(池野理事長=以下、池野氏)本日ディスカッションをしていただくのは、大妻女子大学で栄養学を教えている川口先生です。彼女は管理栄養士の価値を高めるための取り組みをしていて、「ウェルシア薬局でももっと管理栄養士を活用して!」とよく叱られています(笑)。

(川口氏)皆様、初めまして、川口です。叱っていないです、思いをぶつけているだけです(笑)。
ところで私は島根県出身で、大学で大妻女子大学に入り、管理栄養士の資格を取得して島根県に戻ったのですが、管理栄養士の仕事ができる場がありませんでした。就職した島根大学医学部附属病院では管理栄養士ではない仕事を20年以上していたのですが、突然病院長から「栄養治療室室長になれ」と命じられました。管理栄養士としての仕事をここでまったくしていない私になぜ・・・と思いつつも、入院している患者さんたちを食事で元気にしたいと思い、引き受けました。当時は病院で採用している管理栄養士はたったの4人。数十人は外部に委託という状況でした。
私が栄養治療室室長になってやったことはいろいろあるのですが、その一つに備蓄品を揃えることでした。そのとき委託企業の人に言いました。「私が守るのは入院している患者さんや病院の職員ではない。委託企業であるあなた方です。あなた方がいないと、いざという時に備蓄品がきちんと配布できないんだよ」と。なぜこういうことを就任直後にしたかというと、言葉が良くないですが、当時の病院は業者をあまり大切にしていないように感じていたからです。委託だろうが職員だろうが病院で働く一員であることは変わりない。イノベーションというほどではないかもしれませんが、栄養治療室室長という立場になったからこそ、まずはここから変えていこうと考えたのです。とても共感してくれ、良いチームができたことを覚えています。認められれば人は積極的に動きますよね。

(池野氏)私たちのお店は委託ではなくアルバイトやパートの方が多いので、川口先生がおっしゃることはよく分かります。社員でもアルバイトやパートでも、ウエルシア薬局で働く一員なのだから、どちらも大切にしないといけませんね。分かっているつもりではありますが、改めて心に刻もうと思いました。

癌は治療が優先、食事は後回し、という考えを変えたかった。

(川口氏)そしてもう一つ、患者さんが残している食事を見て、海苔やかつお節、牛乳などを変えました。匂いが良くないものは食べないのです。

(池野氏)病院食は基本的に美味しくないですよね。

(川口氏)そうなんです。病院は栄養を一番に考えるから味が二の次になってしまいがち。でも食べてくれなければ、いくら栄養価が高くても意味がありません。例えば癌の患者さんに対しては医療分野、つまり治療が優先され、副作用で食べたくても食べられないことは仕方がないと考えられていました。でもそれで本当に良いのだろうか。癌の患者さんにも美味しく食べてほしいと考え、食べてくれるような工夫が必要だと思い、癌のお患者さんに対する「食べる治療」を始めました。そして「がん患者の専任栄養士」を誕生させました。一人ひとりの患者さんの状態に合わせ、食べたいものを、食べられるよう調理して提供する。癌は診療報酬がないので寄り添っていけばいくほど赤字になるのですが、努力の結果、70点ではありますが、診療報酬が得られるようになりました。

(池野氏)素晴らしいですね!医療と食をセットで取り組む。まさに医食同源の発想です。食べる喜びを取り戻すことで気持ちが上がり、治療と食事の相乗効果が起きるのでしょうね。

(川口氏)はい。積極的な治療を支える食事栄養もまた治療のひとつであると確信しました。これも管理栄養士だからこそ、室長というポジションだからできたイノベーションではないか、と感じています。

管理栄養士の活躍の場を増やし、イノベーションを起こせる存在に。

(川口氏)これまで私が前面に立っていろいろなことをしてきました。これからも患者さんと向き合っていきたいという気持ちもあったのですが、ある意味“イノベーションが起こせる”管理栄養士を輩出しなければならない、管理栄養士が活躍できる場所を増やさないといけない、という気持ちが強くなりました。

(池野氏)そのためには教育が大事だと考えるようになったのですね。川口先生はこれまでとても素晴らしい実績をお持ちですが、川口先生が考える医療と食事に対する思いなどを未来に繋げていかないと、困ってしまう患者さんが増えてしまいますよね。

(川口氏)大学病院にいた頃は患者さんが愛おしかった。でも今はとにかく学生が愛おしい。その愛おしい学生が薬局に就職することが増えました。とても嬉しいことなのですが、一方で離職率も高いんです。
再び東京に就職するために来たとき、街のあちこちに“栄養不良難民”がいることに驚きました。また、手術を控えている患者さんに「栄養士さんに相談して」と言ってくれる医師は多くない。それが関係しているのか、手術前に7kg体重が落ちましたという人もいる。こんなことはあってはならない。こういうときこそ、生活者の身近な存在であり、医療とつなぐ役割を持てるのは薬局の管理栄養士です。でも薬局の管理栄養士が少ないと、できるはずのサポートがしてあげられない。それが本当に悲しいのです。

ちなみに、653名の薬剤師、296名の管理栄養士にアンケートを実施したデータがあります。
薬剤師の75.8%が「薬局に管理栄養士がいたほうが良い」と回答。一方、管理利栄養士は同じ質問に対し41%しかそう回答していません。また、「薬局は管理栄養士の職能が活かせる場である」という質問に薬剤師は91.7%が回答。「薬局は管理栄養士がいなくても業務に差し支えがない」と回答した管理栄養士が44%もいます。
(池野氏)このデータには驚きですね。ウエルシア薬局にもたくさんの管理栄養士がいますが、なかなか来店する方の質問に的確に答えられていない、もしくはうまく伝えられていない、という話を聞きます。どうすれば改善されるのでしょう。
(川口氏)薬局での管理栄養士の役割は、「栄養支援、マーケティング、商品サービス」だと考えています。これらの教育は学校だけではカバーできません。社会に出た後も教育していかなければならないと考えていますが、現実ははっきり言ってまだまだできていません。
(池野氏)そうですね。管理栄養士の視点でイノベーションが起きれば地域創生も魅力的な商品開発もできてくるでしょうから、JIDLとしてもできる限りの努力をしていきたいと思います。

スペシャルプログラム:ワークショップ
タイトル:『自分たちだったら、どうやって紫芋蜜を販売するか』

多様性のある会員がいるからこそ面白い視点が見つかる

JIDLカレッジセミナーは、一方的に登壇者の話を聞くものではなく、参加型、共創型です。その象徴としてワークショップを実施しました。このスタイルは初めての試みでしたが、食品としては高価な10,000円(税別)の商品をどうすれば世の中の多くの人に届けられるか、を各テーブルで話し合い、発表していただきました。

今後も状況に応じてワークショップを実施したいと考えています。また、時には会員の課題などを参加者と一緒に考えるワークショップも企画し、カレッジセミナーからイノベーションに繋げていきたいと考えています。
第四回 JIDLカレッジセミナーは、2023年4月13日(木)、外国人記者クラブ内の会場で開催予定。