第四回 JIDLカレッジセミナーを開催!
2023年4月13日(木)に、東京・丸の内にある日本外国特派員協会にて、第四回JIDLカレッジセミナーを開催しました。
恒例となっている開会挨拶で、「想いを受け継ぎ、明日をつくる」と池野は唐突に話を始めます。実はこの日、建物の1階では2024年上半期(4〜9月頃)に新発行される新紙幣が展示されていました。そこには新紙幣に描かれている一人・新渡戸稲造の「思いを受け継ぎ、明日をつくる」という言葉があり、それに感銘を受け話をしたとのことでした。ビジネスにおいて、思いも大事だが、その思いを受け継いでいく、繋いでいく。そして希望のある明日をつくることが重要だ、ということを言いたかったのでしょう。いろいろな業種の方が集まり、みんなでディスカッションし、イノベーションのヒントを見つけていく、というJIDLカレッジセミナーの冒頭にふさわしい話でした。
第一部 西郷 真理子氏(当会・理事、都市計画家) 講演
タイトル:『都市計画を通し、イノベーションが起こる時』
●都市計画家は、都市にイノベーションを起こす
私が生業にしている都市計画家というのは、簡単にいうと都市機能のイノベーションに取り組む人のこと。国や地域で定められている法律や条例を把握し、その中これまでなかったことを作り上げたり、ときには常識を覆したり・・・。いかに人が住みやすい地域にしていくかを第一に考える仕事です。
歴史としては200年以上前の産業革命の時代まで遡ります。その頃から都市計画を考えて取り組んできた人がいるというのは、とてもすごいことだと思いませんか?
私はこれまで、埼玉県川越市や香川県の高松丸亀町など、日本のあちこちの都市計画に関わってきました。その中で、一番大きなプロジェクトだった香川県の高松丸亀町商店街の再開発です。そこで高松丸亀町商店街でどんなイノベーションに取り組んできたか、について簡単にではありますが、お話をします。
結果から言うと、高松丸亀町商店街の再開発プロジェクトは既成概念を覆し、イノベーションを起こせたと思っています。それは、主に「行政主導から民間主導へ」と「客を集めるから居住者を取り戻すへ」を実現させたからです。
●民間主導では、特にプロフェッショナルさと、コミュニケーション能力が重要となる
民間主導で実行する際に「誰が主体となってやるのか」というのが大きなポイントになります。このとき、避けて通れないのが土地問題と権利調整です。高松丸亀町商店街では、地権者の土地はいじらず、再開発組合が建てたビルを地権者法人であるまちづくり会社が定期借地権を設定して買い取り運営する、というスキームにできたことが民間主導の実現につながったと思っています。つまり、都市再開発法に基づく市街地再開発事業として行い、土地の所有と利用を分離し、合理的な土地利用を可能にしたということです。これがプロフェッショナルとしての力量。専門的な言葉だらけで分かりづらいかもしれませんが・・・。
それから、地権者全員と「どんなまちにしたいか」というビジョンを徹底的に話し合ったことも大きかったと思います。初めは利害が対立しがちでしたが、話し合いを続けていくうちに徐々に融和していきました。大変なときでもきちんと話し合いを続けるというコミュニケーション能力も重要です。
●まず地域住民が住み続けたい街にする
地権者をはじめ地域の方と話していくうちに出てきたキーワードが「生活できるまち」でした。さまざまなネタを作って観光客を呼んでくるのも素晴らしい取り組みだと思いますが、地域住民が住みやすい、生活ができるまちにするべきだと。観光で今は賑わっているとしても、その賑わいはいつまで続くかわからない。人口減と高齢化の加速が起きるなかで、持続可能な社会を実現するために「100年先を見すえたまちづくり」に取り組むべきだと思いました。
また、商店街ですので、ゾーニングをしていろいろなテナントを入れていくわけですが、テナントを地域外から呼ぶだけでなく、地域の良いものを活かして、よりブラシュアップする「ライフスタイルのブランド化」も進めていきました。
高松丸亀町商店街には、日本全国の中心市街地の再開発を考えている方々がたくさん視察にいらっしゃいます。「高松丸亀町商店街だからできたんでしょ」とおっしゃる方もいますが、既成概念の覆すこと=イノベーションを起こすことは、トリッキーなアイデアが必ずしも必要ではありません。強い意志と覚悟、勇気があれば、きっとできると私は信じています。
第二部 パネルディスカッション
タイトル:『未来を見据えたイノベーションは可能か』
登壇者:池野理事長、染谷 絹代氏(当会・諮問委員、静岡県島田市・現市長)
●2:6:2の構図を理解して、6の人たちに納得してもらう
(池野理事長=以下、池野)島田市の市長として、染谷さんはこれまで数々のイノベーションを起こしてきたと聞いています。具体的にどのようなことをしたのでしょうか。
(染谷氏)島田市長になって今年でちょうど10年になります。これまでたくさんの新しいことをしてきましたので、すべてをお話しするにはとても時間がかかりますがよろしいでしょうか?(笑)
(池野)すべてをお聞きしたいところですが、今日は絞ってお聞きすることにします(笑)。
(染谷氏)分かりました。その前に、これまでできなかったことが、なぜ私は実現できたのか、つまりイノベーションできたのか、ということについてお話しします。
(池野)私も経営者という立場で仕事をしていますので、とても興味があります。ぜひ教えてください。
(染谷)日本は民主主義ですので基本的には数が多いほうが選ばれます。割合で言えば51:49になればいいわけです。ではどうすれば51になれるのか。以前は大きな声でリーダーが「やるぞ!」と言えば51になったかもしれませんが、今の時代は違います。納得してもらわねばなりません。
(池野)納得というのは、全員に納得してもらうということですか?
(染谷)多くの場合、賛成派が2割、反対派が2割、どちらでもないのが6割という構図になります。2割の反対派にももちろん納得してもらいたいですが、反対派の人は何を言っても反対をするので、“どちらでもない6割の人”にいかに納得してもらうかが実現のために重要となります。
(池野)どこの会社にも保守的で変わることを嫌う人はいますよね。でもそういう人が多い会社だとイノベーションは決して起きない。むしろ、退化していく可能性すらあります。
(染谷)おっしゃる通りです。ただ、企業と自治体で大きく違うのは、市長や市議会議員は地域住民による選挙で選ばれるということです。ですので市民が51:49で私を選んでくれたのに、議会で理由もなくむやみに反対し、施策が進んでいかないというのは市民の意思に反対をしていることになります。それをきちんと議会でも伝え、議会の中の“どちらでもない6割の人”に納得していってもらうようにしています。もちろん施策の内容や意義、効果などもきちんと説明をしますけれど。
●「市民に寄り添う」という当たり前なことを徹底する
(池野)染谷さんは市長として3期目ですよね。つまり2回の選挙で勝っている。それは市民が染谷さんの取り組みや姿勢に共感し期待しているからだと思うのですが、何を重視されているのでしょう?
(染谷)それは市民に寄り添うということに尽きます。出来るだけ時間を割いて市役所を出て、一人の“おばちゃん”として地域住民と話をするようにしています。市長と話をするという意識が強いとフランクに話がしにくくなりますので。私としては一市民同士として話をすることで常にいろいろなことに気付かされるので大切な時間です。
●市民に寄り添うからこそ、市民が“欲しい”サービスができる
(池野)よく分かりました。ここに集まっているみなさんの中には、経営者や部長などの方も多くいらっしゃるので、共感されたようですね。あちこちで頷いている方がいました。
それでは、イノベーションとなったいくつか施策の具体例を教えてください。
(染谷)1つは、身近な人が亡くなられた際の、手続きの窓口一本化です。お住まいの地域の役所・役場で手続きをするとき、「この手続きはあっち、その手続きはそっち」などとなることがとても多いと思います。書類の不備や手続きが複雑で後日改めて行くことになってしまった・・・なんてこともよくありますよね。ただでさえご家族が亡くなって悲しいのに手続きに時間をかけてしまうのはいかがなものか・・・かつての島田市も同じ状況でしたが、今は「ご遺族手続支援コーナー」を設け、市役所で行う手続きのほぼすべてが一つの窓口でできるようにしました。
それともう一つが、「島田市版ネウボラ」です。
(池野)ネウボラとはなんですか?
(染谷)フィンランドで約100年続いている法定の母子保健システムで、妊娠期から同じ保健師が担当するというものです。これによって信頼関係が築かれ、家庭状況もよく分かります。家族のことや子育てのことなど何でも保健師に相談できるようになり、親御さんの不安も減りますし、虐待も少なくなります。島田市でもこの取り組みを導入し、切れ目のない支援を行なっています。
(池野)まさしく子どもを地域の宝として一緒に育てていくということですね。地域という意味では、昨年(2022年)の5月からウエルシア薬局と島田市が連携して移動販売車「うえたん号」を運行し始めました。一年くらい経ちましたが、いかがですか?
●今後も、企業との連携、DX化をさらに進めていく
(染谷)非常に感謝しています。島田市はおよそ66%が中山間部で、そこに住んでいる方がたくさんいらっしゃいます。しかもご高齢の方が多いので、買い物に行きたいと思ってもなかなかできない。そんな方にとっては特に「うえたん号」は本当にありがたい存在でしょう。しかも「うえたん号」はWi-Fiを搭載していますので、オンラインで市街地にいる管理栄養士や薬剤師とも話ができます。これも非常に便利です。買い物で市街地に出られないなら当然市役所に来て手続き等をするのも困難なはずだということで、今年度からは行政相談員も同行させ、行政サービスがその場でできるよう調整しています。どんな年代の方でも生活をしやすくするために、今後も企業と連携しながら、そして効率化のためにDXの取り組みも進めていきます。
(池野)我々としても「うえたん号」がより一層便利に使っていただけるために何ができるかをテストしながら行っていますので、こういった声が聞けるのは嬉しいです。
ありがとうございました。
スペシャルプログラム:ワークショップ
タイトル:『「腸活」が社会的ムーブメントの今!あなたは(会社)は何をする?』
●自分ごと化して腸活を考える
今回2回目となるワークショップ。テーマに腸活に選んだのは、腸活が健康増進のために必要なことだとムーブメントになってきているからです。ですので、ビジネス視点だけでなく、生活者視点も大切なことだと考えていたのですが、さすがは我が会員の方々。何かを取り入れることでの腸活だけでなく、そもそもストレスを溜めないことが腸活の第一歩という発表がありました。また、食品を取り扱うメーカーの方がいる班からは自社商品を使っても腸活になるという発表もあり、非常にユニークなワークショップとなりました。
毎回、予想を超える盛り上がりと熱量を感じるJIDLカレッジセミナー。
次回は9月15日(金)。羽田空港第1ターミナル6階『ギャラクシーホール』を会場に開催します。
お楽しみに。