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第二回JIDLカレッジセミナーを開催!

2022年7月21日(木)、『ラ・ソラシド フードリレーションレストラン』(東京都墨田区・東京スカイツリータウン・ソラマチ 31F)にて、第二回 JIDLカレッジセミナーを開催いたしました。

今回も前回のJIDLカレッジセミナー同様、二部構成。第一部は、(株)モノサス 食事業開発ディレクター(初代Google Japan Food Manager)・荒井茂太氏による講演。第二部は、理事長の池野と高見澤氏・山浦氏(当会諮問委員)の3名によるパネルディスカッション。また、JIDLが関わる商品が初めてお披露目、そして発売されたニュースについて報告しました(7月15日、長野県佐久市「フレスポ佐久内にオープン」。

荒井氏の講演テーマは、『社員が「美味しい」をたくさん経験すると、その企業はイノベーションを起こしやすくなるか』。このテーマに対し荒井氏は「YesでもありNoでもある」と話を始めます。Googleを退社した後も、さまざまな企業の社員食堂や学校給食をプロデュースする荒井氏らしい視点と発想、そして経験を交えてお話しいただきました。

第二部のパネルディスカッションのテーマは、『イノベーションはいつ、誰によって起きるのか?』。池野理事長が「これまでやってきたことを疑って新しいことに取り組んでいかねば」という危機感を持っていることから、今回も『イノベーション』をキーワードに選びました。慶應義塾大学で学生たちと共に新しいことに取り組んでいる山浦氏、医薬に関係する出版物を発行する高見澤氏それぞれの専門的な視点で話が展開されました。
また、賛助会員の方からの質問もあり、パネラーから賛助会員への質問もあり、意見を交わすという、双方向で考えるパネルディスカッションに発展しました。


第一部 荒井茂太氏 講演
タイトル:『社員が「美味しい」をたくさん経験すると、その企業はイノベーションを起こしやすくなるか』

イノベーションを起こすキーワードは、「日常感」

みなさん、こんにちは。(株)モノサス 食事業開発ディレクターの荒井茂太です。その前は、10年間、Google Japan Food Managerを務めました。
私が社員食堂のプロデュースに長年関わってきていることから、『社員が「美味しい」をたくさん経験すると、その企業はイノベーションを起こしやすくなるか』というテーマで講演してもらえないか、とJIDLから相談されたとき、面白いテーマと思いましたが、同時に難しいテーマでもある、と感じました。
私の結論は「YesでもありNoでもある」です。それはなぜだと思いますか? 美味しいものを食べるという経験だけではイノベーションが起きにくいからです。Googleは多くのサービスがありますので、それを例にイノベーションが起きやすい傾向をお話ししましょう。
Googleを代表するサービスに『Gmail』や『Googleアース』といったものがあります。使っているよ、という方も多いでしょう。

これらは、ある天才がパソコンの前でひらめいたものではありません。社員食堂で美味しいものを食べながら、他部署の社員も交えて雑談していたときにひらめいたものと言われています。ここでポイントは2つ。
・社員食堂という日常の場であること
・初めて会った人ではなく、関係性がある人たちとの会話で生まれたこと
です。つまり、かしこまらず、リラックスした気持ちの中でこそ、イノベーションは起きやすい傾向にあります。
こういうと、あれ?と思う人もいるかもしれません。「ここはレストランだし、関係性があまりない人もいるからイノベーションは起きにくいのではないか」と。一見、そうと言える環境かもしれません。しかしJIDLカレッジを実施する会場は、素敵なレストランではありますが、かしこまったイベントスタイルではありませんよね。開会前は多くの人があちこちで名刺交換をして雑談していましたし、開会後も大きく口を開けてパクパクと食べている方もいらっしゃいました。これはある意味、リラックスできていることでもあります。このイベントに参加して初めて会ったという人もいるでしょうけれども、何回か参加しているうちに顔見知りになっていきます。また、いろいろな業界の人が参加しているので視点も違い新たな気づきも得られるでしょう。良い食が提供される場には人は集まりたくなります。人が集まると会話が生まれて、会話が生まれると新しい発想が出やすくなる。新しい発想がイノベーションになっていく・・・。JIDLカレッジはとてもユニークなスタンスだと思うので、皆さんの取り組み方次第で、イノベーションが起きやすくなるのではないか、と思います。

ビジネスと食は密接な関係がある

以前の社員食堂は「お腹を満たす食の場」という傾向が強かったのですが、最近は「健康を増進するための食の場」になりつつあります。私がGoogleを退職した時点でGoogleの社員は世界に約65,000人いました。その中で社員番号50番台にシェフがいます。総務部長や人事部長よりも前にシェフを社員に雇っていたのです。そのくらいビジネスと食は密接しているということに早くから気づいていたというのです。

食が豊かな日本は、実はイノベーション大国になれる素質がある

日本はとても食の豊かな国です。その地域でしか知られていない、場合によってはその地域の人でさえあまり食べたことはない食材がたくさんあります。そういう地域では、生産量が少ないので東京の流通がとても多いところには出荷できません。そこで私は、社員食堂や学校の給食という特定の人が食す場で地域の食材を使うことで地域創生にも貢献したい。そして会話が活性して、日本中でイノベーションの種が生まれたらいいなと思っています。むしろ、食が豊かな日本は、世界中のどこよりも、実はイノベーション大国になれると信じています。

第二部 パネルディスカッション
タイトル:『イノベーションはいつ、誰によって起きるのか?』
登壇者:池野理事長、諮問委員・高見澤氏 山浦氏

イノベーションにコミュニケーションは必須

(高見澤氏)私の本業は薬剤師の協会、製薬会社やドラッグストアなどの冊子などの出版物のプロデュースや編集です。北から南まで、山頂の診療所などの取材など、日本全国津々浦々、行きました。その経験もあって最近は地域ブランドの創生をお手伝いすることも行っています。医療や飲食の専門家ではありませんが、さまざまな地域を見てきた経験や知見を活かしてJIDLに貢献していこうと思っています。

(山浦氏)私は現在、大学で未来ある学生に教育をしつつ、付属の薬局で薬局長を務めています。それ以前は薬剤師として全国チェーンの薬局に勤めていたこともあります。そのときの話ですが、タクシーの運転手と話をしていたら「俺も明日から薬剤師になろうかな」と言われたことがあります。例えばアメリカでは薬剤師は長年トップ3に入るくらい人気の仕事です。しかし日本では憧れどころか誰にでもなれる仕事だと思われている。とてもショックでした。縁あって大学で指導する機会を得ましたので、学生たちにはそのエピソードを話をしつつ、薬剤師の価値向上ももう一つのミッションとして取り組んでいます。

(池野理事長=以下、池野氏)ありがとうございます。改めて本日のテーマを言いますと、『イノベーションはいつ、誰によって起きるのか?』です。そこに踏み込む前に、少し高見澤さんにお聞きします。
先ほど高見澤さんは日本全国の地域に行ってきたとありますが、その地域の人々は、地元の食材を美味しいと感じて食べているのか、採れるからたまたま食べているのか、どうなのでしょうか。

(高見澤氏)多くの地域の人たちは、「美味しい」だけでなく「体に良い」食べ物であることを知って食べています。しかし先ほど荒井さんのお話にもあったように、美味しいだけでは健康感が高まりません。美味しいこととコミュニケーションの相乗効果が重要だと感じています。私も山浦先生も長野県佐久市の出身なので佐久市を例えて話をしましょう。
昭和30年代の佐久市は、脳卒中などの病気発症が全国ワースト1位でした。そこから自治体や地域の病院、市民たちで補導員(各家庭を周り、塩分調査をする人)を設けたところ、10年後には全国平均くらいの発症数にまで改善されました。また、10万人あたりの長寿率は日本でも群を抜いて一位。公民館の数は東京の次に多いそうです。公民館に経験も年齢も違う人たちが集い会話をすることで知識や経験の情報交換ができ、健康感が高まりますし、実際に健康になっていると言われています。

(池野氏)なるほど。「美味しいものを食べること」や「コミュニティで会話をすること」が健康感の向上であったり、イノベーションのきっかけになったりするという話ですが、コロナ禍で大学にもほとんど行けない学生たちと接する山浦先生は、この話を聞いてどう思われますか?

(山浦氏)そうですね。健康という点で言うと、特に一人暮らしの学生は一日中一人でいて直接コミュニケーションを取ることがないので精神的に病む人が増えていると感じます。そこで本学では、特に今年(2022年)4月からは授業もテストも通常通りのスタイルを開始しました。
イノベーションという点で言うと、研究分野は答えがないものですので、自由な発想が重要です。きちんと考えてから発言する人、何も考えず思いつきで発言する人、さまざまですが、いずれにしても発言の内容について否定をしないということは心がけています。聞いたときはたいしたことがないと思う内容でも、よくよく考えたらとてもユニークな発想でイノベーションにつながったというのはよくあることですので。
とはいえ、話があちこち飛んでしまっても時間の無駄になるので、何のために研究しているのか、発言した目的は何かを、ディスカッションの中で時折挟むようにしています。

口にした瞬間の驚き・感動がイノベーションのきっかけになる!?

(池野氏)第一部の荒井さんのお話で、社員食堂で美味しいものを食べながらいろいろな人と雑談していて、ある気づきがあるイノベーションのきっかけになるという話がありました。同じ空間でも良い発想が出る人と出ない人がいる。そういう意味では、例えば出身地によって違うと感じることはありませんか?

(高見澤氏)例えば総理大臣になった人の中では群馬県出身者が多いとか・・・なぜなのかわかりませんが、そういう地域性というのはよく耳にしますよね。しかし私の経験値では、良い発想が生まれやすい、生まれにくいという点での地域性はあまりないと思います。あくまでもその人の潜在的個の素養が重要ではないかと。でもその素養が育まれるのは地域での原風景であったり人との出会いであったり、さまざまな経験だと思います。

(山浦氏)私自身が経験した話ですが、学生時代に北海道を自転車で回ったことがあります。その時に積丹半島にも行ったのですが、そこで食べたウニがとても美味しくて感動しました。それまでウニは美味しくないものと思っていたので価値観がすごく変わりました。この経験から、たぶん、ときどきだとしても、美味しいものを食べて感動した経験がある人はイノベーションを起こしやすい素養が身につくかもしれないと思いました(笑)。

(池野氏)この話はまさにイノベーションに近いと感じました。「これまでやってきたことを疑って新しいことに取り組んでいかねば」この時代は生き残れないと強く感じています。美味しくないと思っていたウニが美味しいと感じる経験をした。山浦先生の思い込みというか、意識が変わったわけですよね。これも変革と言えるでしょう(笑)。

(高見澤氏)少し話がずれるかもしれませんが、私たちも地域の人たちも日常的にすごく美味しいもの、しかも高級なものを食べているわけではないですよね。今回JIDLが監修した鹿児島の紫芋蜜。私も口にしましたがとても美味しい。しかも甘いのに健康にも良い食材という優れものです。しかし高級なことと希少価値が高いこともあり、南さつま地域の人たちでさえ「ハレの日」にしか食べなかったそうです。日常とはそういうものでしょう

(池野氏)荒井さんがおっしゃったように、レストランという非日常体験での美味しいものを食べるのは心が躍ります。とても幸福感に満たされます。ですが実際には毎日そういうわけにはいかないので、いかに日常の食で美味しいものを体験するか、そしてできるだけ食べるときにコミュニケーションを取ることが重要なのかを実感しました。

今回のパネルディスカッションのテーマは、『イノベーションはいつ、誰によって起きるのか?』でした。地域性、食、感動、コミュニケーション、素養の育成・・・さまざまなキーワードが出ました。このテーマは奥が深く、一度のディスカッションではまだまだ時間が足りません。今後、時々はこのテーマを使っていこうと思います。
JIDLカレッジセミナーは参加型、共創型セミナーというのが特徴。これからも皆様の期待を超えていく新しい視点で開催していきますので、ご興味を持っていただいた方はぜひご参加ください!
第三回JIDLカレッジセミナーは、12月8日(木)に開催決定。