第一回 JIDLカレッジセミナーレポート(ダイジェスト)
2022年4月14日(木)、フレンチレストラン『イリエスケープ』(横浜市中区桜木町)にて、第一回 JIDLカレッジセミナーを開催。26名の賛助会員が参加し、国内外で活躍する奥田シェフの美味しい食事を口にしながらセミナーに参加するという、JIDLならではの新しいスタイルで実施いたしました。
JIDLカレッジセミナーは二部構成で行い、第一部は、当会の諮問委員であり国内外で活躍する奥田シェフによる講演。第二部は、理事長の池野と石原氏・澤田氏(当会理事)の3名によるパネルディスカッションを実施しました。
第1部 奥田シェフ講演
タイトル:『なぜ今「医⾷同源」なのか? 〜地球視点で考える、⾷と健康の未来〜』
食と地域、食と地球は強くつながっている
みなさん、こんにちは。奥田政行です。私が経営するレストラン『イリエスケープ』へようこそ。人口10万人くらいのまち・山形県鶴岡市出身です。私の生い立ちはさておき・・・(笑)。
私は料理人なので、医食同源の中でも、特に食についてお話をしたいと思います。
地球を構成する要素は、土と太陽、大気、光、物質です。物質をここでは食材に置き換えて話します。土が食材に与える影響、太陽が食材に与える影響、大気が食材に与える影響などを考えると、私の出身地である鶴岡産の小松菜と東京産の小松菜ではなぜ味が違うのか、ということがわかるようになります。
食材は、塩と水以外は、すべて生き物からできています。地域に生態系があるということは、そこには生き物がいっぱいいるということになります。つまり、その地域は食材の種類が豊富で、食材の宝庫ということになります。食材がたくさんあるということは、実は地域創生のすごく重要なことです。美味しい食があるところには人が集まりますから。皆さんも美味しい食は好きですよね?
人とつながって輪を広げていく
地方は人口減少が著しいなどマイナス面を取り上げられがちですが、もちろんプラス面もあります。例えば地方では、レストランに公民館のように人が集まります。消費者だけでなく生産者の方もいれば大学教授のような知識人も集まります。人が集まることにどういう価値があるかというと、例えばある地域から古くからある野菜が消えつつある場合、料理人だけでなく、生産者や知識人など、みんなでこの野菜を守ろう、みんなで次世代へつないでいこうということになり、それぞれの立場で行動するようになるのです。
これを私は『“結い”のトライアングル』と言っています。知識人は仕事ができる人ほどお金がありません(研究に使ってしまうため)。しかし学生という人材とつながっているという価値があります。料理人は時間がありません。しかし評論家やマスコミとつながっていることが多く、わからないことがあればすぐに聞くことができます。生産者は農地を持っていたり同業の仲間がたくさんいますし、食材の知識が豊富だったりします。これらがトライアングルとなって活動することで輪がどんどん広がり、これまでできなかったようなことができるようになったりします。
そこで気づいたのが、地域を元気にしたいならもっと地域を知らなければならない、ということでした。私は早速、庄内地域の歴史を勉強し始め、庄内になぜこの野菜があるのか、そして庄内の食習慣がわかるようになりました。
食で地域活性はできる
皆さん驚くかもしれませんが、美味しいナスがあるだけで人が来るようになります。コロナ前の話ですが、5年間で外国人の来訪者数が3倍になりました。もちろんナスだけがもたらした効果ではないですけどね。
実は料理は簡単です。先ほど、食材は塩と水以外は生き物からできているとお話ししました。簡単にいえば、その生き物が経験したことのない熱を加えることが料理です。
水分が多い食材には熱を加えて空気で飛ばせばローストという食品になります。水で茹でればフランスでいう『ポシェ』になります。その食材に適した熱媒体を加えれば、確実に美味しくなります。
こういった知識は私の努力だけで蓄えられたものではなく、多くの人と出会い、語り合ってきた賜物です。そのお返しとして、生産者も消費者もみんなが共に喜び合えるような社会にしたいと思っています。皆さん、JIDlと共にみんなで実現していきましょう!
第2部 第二部 パネルディスカッション
タイトル:『イノベーションを起こすには何が大事か、何をすべきか』
登壇者:池野理事長、理事・石原氏 澤田氏
イノベーションのキーワードの1つは「多様性」
(池野理事長=以下、池野氏)イノベーションという言葉は以前から耳にしていましたが、ここ最近特に聞くようになりました。イノベーションについてインターネットで調べると、実にいろいろなことが出てきます。その中で私が思ったのは、「強く興味を持ったことをビジネスに転換する」ことがイノベーションではないか、ということです。
今回、登壇いただいた石原さん、澤田さんは起業していらっしゃるので、お二人がイノベーションについてどう考えているか、お聞きしたいと思いました。同時に参加いただいている会員の皆様にもご意見をお聞きしていきたいと思います。
本題に入る前に、簡単に自己紹介をしていただきましょう。
(石原氏)初めまして、石原亮子と申します。2008年に「女性活躍という言葉が無くす」というコンセプトで起業しました。今でこそダイバーシティという言葉がありますが、まだまだ世界に比べても遅れているという実感があります。日本の女性の教育レベルの高さ、能力の高さに対して、その能力を発揮する場がまだまだ少ないという印象です。
どこで女性の能力を発揮してもらうか、ということを考えたときに、私も営業出身なので営業代行という職種でお取引先の企業と提携しています。
最近では、39歳という史上最年少で当選した徳島市の女性と協業して、DX支援を通じて雇用の確保、収入の向上ができる女性を育てていくということを行っています。
(澤田氏)皆さん、初めまして、澤田真弓と申します。2014年に医療業界における外国人患者の言語によるコミュニケーション支援の会社を起業し、今は31言語に対応する医療専門通訳者を遠隔で配置しています。コロナ前は外国人観光客に対する支援、最近は日本在住の外国人の支援を行なっております。治療だけでなく予防という分野でも支援をしています。産業医や保健師などと話をしたときに、食事と健康の重要さに改めて気づきましたので、JIDLでは医療現場を知る立場として何かしら貢献していきたいと考えています。
(池野理事長=以下、池野氏)ありがとうございます。それでは本題にいきましょう。起業しているお二人から、イノベーションについてどう考えているか、お聞きしたいと思います。石原さん、いかがでしょう?
(石原氏)イノベーションをするにはいくつかの要素があると思いますが、一つは「多様性」が重要だと思っています。弊社にはさまざまなタイプの人がいて、経験している業種も違いますし、極端な話ですが入社する前までは金髪だったという人もいます(笑)。
また、私自身、起業する前は起業で営業職で自他ともに認めるトップセールスマンでした。そうなるまでにいろいろなことを努力しましたし、情熱を持って取り組んできました。同じようなトップセールスの人は私と同じ思いで仕事をしているはずだ。だからそういう人たちを集めれば、会社はどんどん成長するだろうと思ったので、リクルート系のエージェントに人材募集の相談をしたら「そういった人材はなかなか見つからない」と。
確かにパワフルでトップセールスマンで・・・という人はたくさんいないしなかなか出会えない、私みたいなタイプが普通なわけではない、と気づいたんです。でもよく考えれば、同じようなタイプばかりの組織より、考えも価値観も違った人がいるような組織のほうが強いんじゃないか、想像以上に成長するんじゃないかとも思うようになりました。
(澤田氏)そうですよね。弊社は他言語で支援をしていますから、外国人スタッフが2割くらいますので、それぞれ価値観や文化も違います。「大変でしょう?」と言われることもありますが、そう思いません。非常にユニークな会社だと感じています。
(池野氏)私が会長を務める会社ではイノベーションを起こせているか、というと、正直そうではないと感じています。多様性ということでも足りていないと思っていますが、普通なことを普通にやっていたら組織も人も成長はないし、当然お客様の期待にも応えられない。だから「イノベーションを起こすしかない!」と考えるようになりました。
(澤田氏)私は多様な人材をスタッフに迎え入れたいと考えてはいますが、強くそう思っていなくても、多様な人材が組織に入ってくることが増えれば、さらに多様性な人が増えるという好循環が生まれます。でも古い組織だと、自分と違った考えの人が入ってくるのを嫌がる傾向にあるんですよね。大きな課題です。
もう一つのイノベーションのキーワードは「制約」
(澤田氏)多様性のほかに、イノベーションに重要だと思っているのは「制約」、つまり時間ですね。戦略にせよ、商品アイデアにせよ、何かを生み出すために、先に時間を決める、期限を決めるようにしています。それは自分自身にも課しますし、社員にも課します。しかも、厳しめな期限を設定します。
(石原氏)たくさん時間があっても結局ダラダラして何も進んでいないということもありますしね。時間がない中でやることを課したほうが、結果的に良いアイデアなどが浮かぶと私も思います。
(池野氏)確かに、傾向として忙しい人のほうがいいアイデアを出せるということはありますね。忙しいといえば、日本中飛び回っている奥田シェフはまさに忙しい人なのだけど、彼からのメールは真夜中に来ることが多いんです。それなのに良いアイデアであったり面白いことが書いてあったりする。すごい人だなと感心しますね。一方で彼は一体いつ寝ているんだろうという心配はありますが(笑)。
(石原氏)実は澤田さんとはお互い起業する前から知り合いなのですが、彼女は前職で「ブルドーザー」というニックネームをつけられるくらいパワフルな人でした(笑)。
(池野氏)ブルドーザー!? すごいニックネームですね。このニックネームを聞いただけで澤田さんがいかにパワフルなのか、想像できます。
(澤田氏)お互いパワフルには自信がありますが(笑)、そんな私も石原さんも、大企業のようなお金もない、人もたくさんいないという状況なので、期限があることによって思った以上のアイデアが出やすいので、イノベーションが起きやすい環境にいるとは思います。