見出し画像

「オーラルケア」〜JIDL管理栄養士と覗く健康トレンド〜

このシリーズでは、JIDLの管理栄養士が巷で話題の健康トレンドや食事についての情報を発信していきます!

健康寿命を延ばすための最重要課題の一つである「オーラルケア」について、管理栄養士の視点から最新の健康トレンド、栄養の力、そして具体的な方法を交えながら、徹底的に解説していきます。


なぜ今、「オーラルケア」が重要なのか?

人生100年時代、健康で充実した生活を送るためには、全身の健康はもちろんのこと、お口の健康が不可欠です。近年、口腔機能の軽微な低下である「オーラルフレイル」が注目されています。これは、滑舌の低下、食べこぼし、わずかなむせなどを指し、身体の虚弱(フレイル)の入り口とも言われ、放置すると全身の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

オーラルケアと全身の健康との驚くべきつながり

口腔内の健康は、単に虫歯や歯周病を防ぐだけでなく、全身の健康と深く、そして驚くべきほど密接に関わっています。

誤嚥性肺炎の予防

口腔内の細菌が唾液とともに気管を通って肺に入り込むことで引き起こされる誤嚥性肺炎は、特に高齢者の死亡原因の上位に位置します。口腔ケアによって細菌数を減らすことは、この深刻なリスクを大幅に低減します。特に、嚥下(飲み込む)機能が低下している方にとって、口腔ケアは生命維持に直結する重要な要素です。

糖尿病との関連

歯周病は糖尿病の合併症の一つとして知られています。歯周病による炎症性物質は、インスリンの働きを阻害し、血糖コントロールを悪化させます。逆に、糖尿病は免疫力を低下させ、歯周病を進行させやすくします。つまり、両者は相互に悪影響を及ぼし合う関係にあるため、両方のケアを同時に行うことが極めて重要です。

認知症との関連

近年の研究で、歯周病と認知症、特にアルツハイマー病との関連性が強く示唆されています。歯周病菌が産生する毒素が脳に移行し、炎症を引き起こすことで認知機能の低下を招く可能性が指摘されています。また、咀嚼(噛む)運動が脳の血流を促進し、認知機能の維持に役立つという研究結果もあります。

心血管疾患との関連: 口腔内の細菌が血管に入り込み、動脈硬化を引き起こす可能性が指摘されています。これにより、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが高まることが示唆されています。

最新トレンド!「予防歯科」と「菌活」

近年のオーラルケアのトレンドは、「悪くなってから治す」から「悪くならないように予防する」という意識への変化、そして口腔内細菌のバランスに着目した「菌活」です。

予防歯科

歯科医院での定期的なプロフェッショナルクリーニング(PMTC)やフッ素塗布に加え、自宅での丁寧な歯磨き、デンタルフロスや歯間ブラシの使用が不可欠です。近年では、唾液検査で口腔内の細菌の種類や数を把握し、個々のリスクに合わせた予防プログラムを提供する歯科医院も増えています。

菌活(プロバイオティクスの活用と最新の研究

腸内環境を整える「菌活」と同様に、口腔内にも善玉菌と悪玉菌が存在し、そのバランスが重要です。プロバイオティクス(善玉菌)を活用したオーラルケア製品(乳酸菌配合の歯磨き粉、タブレット、マウスウォッシュなど)が登場し、注目を集めています。最新の研究では、特定の乳酸菌が歯周病菌の増殖を抑制したり、虫歯菌の活動を弱めたりする効果が報告されています。

食生活で口腔内環境を改善

食生活は口腔内環境に大きな影響を与えます。以下のポイントを意識して、食生活から口腔内環境を改善しましょう。

  • バランスの取れた食事: 栄養バランスの偏りは、免疫力の低下を招き、口腔内の細菌バランスを崩す原因となります。主食・主菜・副菜をバランス良く摂り、ビタミン、ミネラル、食物繊維などを十分に摂取しましょう。

  • よく噛んで食べる: よく噛むことは、唾液の分泌を促進し、口腔内の自浄作用を高めます。また、顎の筋肉を鍛えることで、オーラルフレイルの予防にもつながります。一口30回を目安によく噛むことを意識しましょう。硬い食材や繊維質の多い食材を積極的に取り入れるのも効果的です。

  • 食後のケア: 食後30分以内に歯磨きを行うのが理想的です。歯ブラシだけでなく、デンタルフロスや歯間ブラシを併用することで、歯ブラシだけでは届きにくい歯と歯の間や歯周ポケットの汚れを効果的に除去できます。特に就寝前は丁寧なケアが重要です。

  • 水分補給: 水分不足は唾液の分泌を低下させ、口腔内の乾燥を引き起こします。こまめな水分補給を心掛けましょう。特に、緑茶に含まれるカテキンには抗菌作用があり、口腔内の細菌の増殖を抑える効果が期待できます。

  • 間食の選び方: 間食をする場合は、砂糖の含有量が少ないものや、キシリトールなどの代用甘味料を使用したものを選ぶようにしましょう。また、粘着性の高いお菓子は虫歯の原因になりやすいため、避けるようにしましょう。

おすすめの栄養素と食材

  • ビタミンC: 歯茎のコラーゲン生成を促進し、歯周病予防に役立ちます。(例:ブロッコリー、柑橘類、イチゴ、キウイフルーツ)

  • カルシウム: 歯や骨の形成に不可欠です。(例:牛乳、乳製品、小魚、海藻、豆腐)

  • ビタミンD: カルシウムの吸収を助け、骨の健康を維持します。(例:魚介類、きのこ類、日光浴)

  • 食物繊維: よく噛むことを促し、唾液の分泌を促進します。(例:野菜、果物、きのこ類、海藻、豆類)

  • ポリフェノール: 抗酸化作用があり、歯周病予防に効果が期待できます。(例:緑茶、赤ワイン、ベリー類)

  • キシリトール: 虫歯の大きな原因とされるミュータンス菌の活動を弱める働きがあります。(例:キシリトールガム、タブレット)

まとめ

オーラルケアは、健康寿命を延ばすための重要な要素です。日々の丁寧なケアに加え、食生活の見直し、最新のトレンドや研究結果を取り入れることで、口腔内環境を良好に保ち、全身の健康へとつなげていきましょう。
この記事が、皆様の健康的な生活に少しでもお役に立てれば幸いです。