見出し画像

第9回JIDLカレッジセミナーを開催!

2024年12月5日(木)に、第九回JIDLカレッジセミナーを開催。
第一部は「株式会社マイファーム」代表取締役の西辻 一真氏による講演。第二部は西辻氏と当研究所の理事長・池野によるトークディカッション。第三部は「素直な力株式会社」代表取締役の床 美幸氏による講演。第四部は恒例となったワークショップという四部構成で実施しました。

講演
タイトル:『自産自消できる社会』
登壇者:西辻 一真氏(「株式会社マイファーム」代表取締役)

『自産自消』が当たり前となる社会に

西辻氏が株式会社マイファーム創設時から大切にしているのが『自産自消』という概念。西辻氏によると、『自産自消』とは「自分で生産した食べ物を自分で食べる」こと。自分で生産して、と聞くと大きく大変なことを想像してしまうかもしれませんが、決してそうではなく、家庭菜園で農作物を収穫して、その農作物で料理を自身で作って食べることも『自産自消』です。地産地消をより、食べること、食物とは何かを考えるという点で自分ごと化となりやすい概念という印象です。

講演の冒頭で西辻氏は、「自分で生産した食べ物を自分で食べる『自産自消』だけではなく、できるだけ自然・農業・食生活の境目がない『自産自消』となる社会、『自産自消』が当たり前となる社会を目指している」と熱く話されました。

●株式会社マイファームが考える、『自産自消』できる社会

農業は楽しいもの

西辻氏が『自産自消』を考えるきっかけとなったのは、生まれ育った福井県での体験。
「家族で家庭菜園をしていたので、自然や野菜と触れ合う機会が多く、野菜作りを好きになりました」(西辻氏)。また、高校生のときに通学中に周りの田畑に作付がされていないことに気がついたこと、大学時代にバイオテクノロジーの研究をする中、教授から「この研究は世界の食糧問題に寄与するためだ」と言われたことなどが重なり、大学卒業した翌年に株式会社マイファームを立ち上げたそうです。
「専業農家が年々減少する中で、自分も他人も楽しく農業を始めれば農家にとっても嬉しいのではないか、楽しければ結果として農家、特に専業農家が増えていくのではないか」と考えました(西辻氏)。
そしてこの考えに賛同してくれる仲間が増え、今では100名を超える企業となり、コンサルティングなどさまざまな事業展開をしています。「自称、“小さなJA”です(笑)」(西辻氏)。

本当の意味での農業のイノベーションを起こしたい

「今日、ここに来たのは、皆さんも農業をやろう!ということを話すためだけではありません。もちろん、今日をきっかけに、企業として、個人として農業に関わってくれる人たちが増えることは嬉しいです。同時に、今日の話を聞いた皆さんが、『自社のこのサービスを使えば農家と面白いビジネスができるかもしれない』、『これまでにないイノベーションが起きるかもしれない』と考えるきっかけとなってくれたら嬉しいです。農業のイノベーションは、DX化したトラクターが生まれたり、品種改良した作物を作ったりすることだけではありません。今日、ここでお会いした皆さんと農業が、想像できないコラボレーションができたら楽しいですね」(西辻氏)。

そして講演の最後に西辻氏が大事にしている言葉を話してくれました。それは、
「早くいきたいならひとりでいきなさい、遠くへ行きたいならみんなでいきなさい」
です。決して難しい言葉ではないですが、重みのある、そしてどんなビジネスでも大事にすべき言葉だと感じました。

第二部 トークディスカッション
登壇者:池野理事長、西辻 一真氏(「株式会社マイファーム」代表取締役) 

(池野理事長=以下、池野)JIDLは日本各地にある、まだまだ知られていない食物などを日本や世界に知らしめていく、という取り組みをする組織なので、私自身、とても興味深く話を聞いていました。『自分も他人も「楽しく農業を始めれば農家にとっても嬉しいのではないか」という言葉にとてもワクワクしました。

(西辻氏)ありがとうございます。農業はある意味狭い世界で、農家同士のつながりはありますが、異業種交流は少ないのです。ですので特にここ最近はネガティブな話題が増え、新しいことにチャレンジする人もなかなかいません。農家の子どもたちでさえ、継がない人も増えています。でも未就農な人の中には、農業をやってみたい、という人は案外多いと思っています。そういう人たちに農業の楽しさが伝われば、積極的に農業を始める人も増えると思いますし、農家を継ぐ人も増えるかもしれません。家業だから仕方なく、ではなく、積極的に農業に従事することが重要です。心には使命があるべきですが、楽しくなければ、どこかで疲弊してしまいますよね。

(池野)なるほど。どんな仕事も大変なことはありますが、「楽しく」はとても大きなキーワードですね。改めて感じました。

(西辻氏)先ほど、参加された方々とお話をしましたが、どの方も熱意のある、話をしていて楽しい方たちばかりでした。

(池野)そう言ってもらえて嬉しいですね。JIDLにとって大切なパートナーの方たちですから我が子が褒められた気分です(笑)。
ところで、農家の支援や体験農園以外に、学校も運営されているんですよね?

(西辻氏)はい。縁あって、2021年から学校法人札幌静修学園がマイファームグループとなり、私が理事長に就任しました。

(池野)農業高校なのですか?

(西辻氏)いえ。普通科とユニバーサル科がある一般の高校です。ただ、マイファームが関わるからには農も関わらせたいと思い、アグリコースを設けたり、朝食無償提供などをしたり。マイファームが関わったからこそ、農と食を重視する高校というブランディングができました。

(池野)農業高校ではなく、あえて一般高校の運営に関わった、ということでしょうか。

(西辻氏)あえて、というよりも、たまたま相談を受けたのが一般高校だった、というのが正直なところです。ただ先ほども申し上げたように、マイファームが関わる意味・意義は持ちたかったので、農と食に関する取り組みを取り入れました。

(池野)それは、先ほどおっしゃっていた農家、専業農家を増やすためでもあるのですか?

(西辻氏)それもありますが、『自産自消』の社会を作るというマイファームの理念の実現のため、という考えです。そのためには、ある特定の人たちだけが『自産自消』を実践するのではなく、出来るだけ多く人、欲を言えばすべての人が『自産自消』を実践してほしいと考えています。

(池野)なるほど。つまり、一般高校に通う生徒も、その保護者も含め、食べるだけでなく、農に関わるきっかけを作りたいということですね。それは専業農家だけでなく、家庭菜園でも良いと。そしてそれによって、当たり前に『自産自消』を実践する、ということですね。

(西辻氏)代弁していただいてありがとうございます(笑)。まさにおっしゃる通りです。ビジネスである限り、稼ぐこと、利益を上げることは大切な要素ですが、すべてではありません。利益を上げることで新しいビジネス、新しい取り組みができるようになり、理念実現に近づいていく、と考えています。

(池野)企業理念が形骸化しがちですが、マイファーム社は素晴らしいですね。私も一経営者として身が引き締まりました。

(西辻氏)『自産自消』を実現する、そして世界中の人が農業(土に触っていること)をしている社会を創ることを目指して、これからも頑張っていこうと思います。

(池野氏)JIDLもぜひ一緒にやっていけることを考えていこうと思います。ありがとうございました。

第三部 講演
タイトル:『“みそポタ”を通して描く「発酵と食事の未来』
登壇者:床 美幸氏氏(「素直な力株式会社」代表取締役)

スローで、ファストなフードを開発

床氏が経営する「素直な力株式会社」の代表的な商品・みそポタ。名前の通りみそが入った野菜ポタージュです。
「みそポタが誕生したきっかけは前職の⼈材サービス会社で不健康な登録者やスタッフが年々増加したことに不安を覚えたからです。そこでなぜ不健康な人が増えたのか、ということを調べたのですが、食生活に問題があることが分かりました」(床氏)。どんなに仕事が充実していても、不健康なら幸せなはずがない。そこで忙しいときでもさっと食べられる栄養あるファストフードを作りたいと考え、「素直な力株式会社」を立ち上げて「みそポタ」を開発。みそを食材に選んだのは、床氏が味噌が好きだったこともありますが、発酵食品は体に良く、昔から日本に伝わるスローフードだから。そしてスローで、ファストなフード・みそポタが誕生した、と講演の冒頭で丁寧に話されました。

「こころが躍り、からだが喜ぶ」みそポタ開発で重視したこと

「栄養あるファストフードになるために、重視したことがあります。
それは、
・パンにも合う
・咀嚼しなくても栄養吸収しやすいポタージュスープ
・簡単に温められる
・⾷品添加物無配合
・塩味控えめ
・砂糖を使わない
・美味しい産地にこだわった野菜を使う
・飲みやすい
という8点です。こころが躍り、からだが喜ぶ。まさにJIDLの考えと一緒ですね」と気さくな笑顔で笑って話す床氏。参加した方々の顔も笑顔になっていきます。

コロナ禍によって、雲行きが怪しくなった

「世の中にあまりなく、時短で美味しく栄養のあるスープ。これは多くの人に喜んでもらえると感じ、京都に店舗を構えました。日本人だけでなく京都を訪れる外国人観光客にもとても喜ばれ、手応えを感じる日々でしたが、しばらくして新型コロナが発生し、京都から外国人はおろか、日本人の観光客もいなくなり、実店舗を閉鎖しました」(床氏)。今は実店舗と同時期にオープンしたオンラインストアに注力しているとのことです。「コロナ禍によってビジネスの雲行きが怪しくなりましたが、逆に言うと健康意識が高くなったとも感じました」と床氏は話します。
参加者も他人事ではないようで、自社の当時の様子を思い出しているように真剣に耳を傾けていました。

もっともっと多くの人に知ってもらいたい

講演の最後に、これからもっと取り組んでいきたいと考えていることを話してくれました。
「みそポタが⾝近な存在となり、もっと⼿に取っていただけるようにしたい。お味噌を含めた⽇本の美味しい発酵⽂化を世界の⼈に知っていただく活動をしたい。⼦供達にもお味噌をもっと選んでもらう活動をしたい・・・まだまだたくさんあります(笑)」。
そこで、第四部では、この床さんの思いを実現するアイデアを考えるワークショップを実施しました。

第四部 ワークショップ
タイトル:「みそポタをもっと広く知らしめるにはどうすればいいか」

JIDLカレッジセミナーの参加者は、さまざまな経験や知識を持ち、好奇心旺盛な人が多いのが特徴。第三部で出た課題や思いをどうやって実現していくか、を考えるにはうってつけの人たちです。みそポタを試食しながら、各班で議論しました。
「産地を打ち出すなら、産地の価値をもっと知らしめるべき」「弊社の流通網を使えば、もっと効率的にこんなことができる」「パッケージはこうしてみたらどうか」などなど、すぐにできそうなことから、計画を練ってやっていくことまで幅広いアイデアが出て、床氏は「目からうろこ!」と驚くばかりでした。「早速、いただいたアイデアを参考にいろいろとトライしたい」と話し、今回のJIDLカレッジセミナーは幕を閉じました。