見出し画像

「花粉症と免疫」〜JIDL管理栄養士と覗く健康トレンド〜

このシリーズでは、JIDLの管理栄養士が巷で話題の健康トレンドや食事についての情報を発信していきます!

春の訪れは心躍る季節ですが、同時に花粉症に悩まされる方も多いのではないでしょうか。「毎年この時期は憂鬱…」「薬に頼りたくない…」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。今回は、管理栄養士の視点から、食生活を中心とした花粉症対策を、メカニズムの詳細な解説と最新の健康トレンドを交えてご紹介します。


花粉症のメカニズムと栄養の重要性

花粉症は、花粉に対する免疫系の過剰な反応によって引き起こされるアレルギー性疾患です。そのメカニズムを段階的に見ていきましょう。

  1. 花粉の侵入: 花粉が鼻や目の粘膜に付着すると、体はこれを異物(抗原)として認識します。

  2. IgE抗体の産生: 初めて花粉に曝露された際、体は花粉に対するIgE抗体というタンパク質を産生します。このIgE抗体は、肥満細胞という免疫細胞の表面に結合します。

  3. 再曝露時の反応: 再び花粉に曝露されると、花粉は肥満細胞表面のIgE抗体と結合します。IgE抗体と花粉が結合することで、肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどの化学物質(ケミカルメディエーター)が放出されます。

  4. 炎症反応: 放出されたヒスタミンなどが、鼻水、くしゃみ、目のかゆみ、鼻づまりなどのアレルギー症状を引き起こします。これらは、局所的な炎症反応として現れます。

ここで重要なのが、日々の食生活です。特に、近年注目されているのが腸内環境と栄養の密接な関係です。腸は免疫細胞の多くが集まる場所であり、腸内細菌叢のバランスは免疫機能に大きく影響します。

*人が持つ免疫システム

花粉症対策のための栄養素と食品

上記のメカニズムを踏まえ、花粉症対策に効果的な栄養素とそれらを含む食品を、メカニズムと関連付けながらご紹介します。

免疫機能の調整と腸内環境

免疫細胞の活性やバランス、そして腸内環境は、栄養状態に大きく影響を受けます。

  • ビタミンD: 免疫細胞の機能を調整し、過剰な免疫反応を抑制する可能性が示唆されています。また、腸内細菌叢の多様性にも影響を与える可能性が示されています。

    • 食品例: 干しシイタケ、干しキクラゲ、イワシ、シラス、紅鮭、スモークサーモンなど

  • 亜鉛: 免疫細胞の成長と分化に不可欠なミネラルです。腸管のバリア機能維持にも関わっています。

    • 食品例: 牡蠣、豚肉、大豆など

  • プロバイオティクス(乳酸菌・ビフィズス菌など): 腸内の善玉菌を増やし、腸内環境を整えることで、免疫機能のバランスをサポートします。

    • 食品例: ヨーグルト、納豆、漬物、キムチなど

  • プレバイオティクス(食物繊維・オリゴ糖など): 腸内細菌のエサとなり、善玉菌の増殖を助けます。

    • 食品例: 野菜、果物、海藻、きのこ類、玉ねぎ、ごぼう、バナナなど

炎症の抑制

炎症反応を抑えるためには、抗酸化物質や抗炎症作用のある栄養素が重要です。

  • ビタミンC: 活性酸素を除去し、炎症を抑制する働きがあります。

    • 食品例: ブロッコリー、キウイ、イチゴ、パプリカなど

  • ビタミンE: 活性酸素を除去し、炎症を抑制する働きがあります。

    • 食品例: アーモンド、アボカド、植物油、かぼちゃなど

  • ポリフェノール: 活性酸素を除去し、炎症を抑制する働きがあります。

    • 食品例: 緑茶、赤ワイン、ベリー類(ブルーベリー、ラズベリーなど)、カカオなど

  • オメガ3脂肪酸: 炎症性物質の生成を抑制する効果があります。

    • 食品例: 青魚 (サバ、イワシ、サンマなど)、亜麻仁油、えごま油、くるみなど


粘膜の健康維持

鼻や目の粘膜は、外部からの異物(花粉)の侵入を防ぐバリアとして機能しています。

  • ビタミンA、β-カロテン: 粘膜の正常な機能を維持するために不可欠な栄養素です。β-カロテンは体内でビタミンAに変換されます。

    • 食品例: ニンジン、カボチャ、ホウレンソウ、マンゴーなど

食生活と生活習慣のポイント

  • バランスの取れた食事: 上記の栄養素をバランスよく摂取するため、偏りのない食事を心がけましょう。

  • 抗炎症作用のある食品を積極的に: オメガ3脂肪酸を含む青魚や、抗酸化物質豊富な野菜や果物を積極的に摂りましょう。

  • 腸活を意識した食生活: プロバイオティクスとプレバイオティクスをバランスよく摂取し、腸内環境を整えましょう。発酵食品を日々の食事に取り入れるのもおすすめです。

  • 加工食品や添加物を控える: 加工食品や添加物は、腸内環境を乱し、炎症を悪化させる可能性があります。できるだけ自然な食品を選びましょう。

  • 生活習慣の見直し: 十分な睡眠、適度な運動、ストレス管理も腸内環境を整える上で重要です。

最新健康トレンドと花粉症対策

近年注目されている健康トレンドと、花粉症対策を組み合わせてみましょう。

  • 腸活: 腸は、食べ物の消化吸収だけでなく、免疫機能にも深く関わっていることが分かってきました。腸内には多種多様な細菌が生息しており、その状態は「腸内フローラ」と呼ばれます。腸内フローラは、善玉菌、悪玉菌、日和見菌など、様々な細菌がバランスを保って存在しており、そのバランスが崩れると、便秘や肌荒れだけでなく、免疫力の低下や精神的な不調にもつながる可能性があります。腸内細菌叢のバランスを整えることは花粉症対策において非常に重要と言えます。

腸活の効果を高めるためには「シンバイオティクス」の実践が大切です。シンバイオティクスとは、プロバイオティクスとプレバイオティクスを同時に摂取することです。
善玉菌(プロバイオティクス)と、そのエサ(プレバイオティクス)を一緒に摂ることで、より効率的に腸内フローラのバランスを改善する効果が期待できます。
例えば、ヨーグルト(プロバイオティクス)にバナナ(プレバイオティクス)を添えて食べる、といった組み合わせがシンバイオティクスの例です。

腸活を行うことで、腸内細菌のバランスが改善され、短鎖脂肪酸の産生量が増加します。その結果、免疫システムにおいて重要な役割を担う制御性T細胞
(Treg)*の数や機能が高まり、免疫機能が正常に働くようになります。

*制御性T細胞(Treg)
Tregの最も主要な働きは、過剰な免疫反応を抑制することです。免疫システムは、外部からの異物(抗原)を排除するために働きますが、その反応が過剰になると、自己の組織を攻撃してしまうことがあります。Tregは、このような自己免疫反応やアレルギー反応を抑制し、免疫システムのバランスを保つ役割を果たします。

  • 地中海食: 野菜、果物、魚介類、オリーブオイルなどを中心とした食事で、抗炎症作用や免疫力向上、腸内環境の改善に効果的です。地中海食は、腸内細菌の多様性を高めることが示唆されています。

  • マインドフルネス: ストレスは免疫機能や腸内環境に影響を与えるため、瞑想やヨガなどで心身のリラックスを心がけましょう。ストレスは腸の蠕動運動を阻害したり、腸内細菌叢のバランスを崩したりする可能性があります。

  • 機能性食品: 特定の健康効果が期待できる食品を取り入れるのも良いでしょう。例えば、抗アレルギー作用が期待される乳酸菌を含むヨーグルトや、腸内環境を整える効果が期待されるプレバイオティクスを含む食品などが挙げられます。

まとめ

花粉症対策は、薬だけに頼るのではなく、日々の食生活を見直すことが大切です。特に、腸内環境を整えることは、免疫機能のバランスを保ち、花粉症の症状を緩和する上で重要です。バランスの取れた食事を基本に、抗炎症作用のある食品や腸内環境を整える食品を積極的に摂り入れ、体の中から花粉に負けない体づくりを心がけましょう。
もし、食事について不安なことや疑問があれば、お近くの管理栄養士にご相談ください。個々の体質や生活習慣に合わせたアドバイスを受けることができます。
この記事が、皆様の快適な春の過ごし方のお役に立てれば幸いです。